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インタビュー

株式会社MGNET 武田修美さん|燕三条を今よりもっと「ものづくりしやすい」まちに。デザインの概念をアップデートし、新潟のクリエイティブ市場を底上げ

2023.06.13

| Interviewee |

株式会社MGNET

※ 広義のデザイン、狭義のデザイン
「広義のデザイン」とは、目的を達成するための思考の枠組みやコンセプトの設計など、体験やサービス全体に目を向けて設計していくデザインの捉え方を呼ぶ言葉。その設計に基づいて、実際にチラシやWebサイトなどのアウトプットを作ることを「狭義のデザイン」と呼ぶ。

武田 修美(たけだ おさみ)

1980年新潟県燕市に町工場の跡継ぎとして生まれる。車の営業マンとしてキャリアをスタートするも、大病を患ったことをきっかけに父親が経営する株式会社武田金型製作所に入社。その後、同社の新規事業部にて、金型加工技術を詰め込んだ名刺入れブランドを設立する。2011年、事業部の売上拡大を受け、株式会社MGNET(マグネット)を設立。現在はものづくり・ことづくり・まちづくりのブランディングを軸に、多数の事業を展開している。2021年には燕三条のDNAから育まれた「デザイン思考」で、地域に新たなビジネスが生まれる仕組みづくりを研究する民間シンクタンク「BEECL(ビークル)」を設立。所長として研究活動に従事する。また、開志専門職大学・横浜商科大学の非常勤講師やGoodpatch Anywhereのサービスデザイナーとしても活躍するなど、日々活動の幅を広げている。

 狭義のデザインには限界がある。業界の課題を点ではなく、面で捉える。

― 武田さんはキャリアを大手自動車会社の営業からスタートされていらっしゃいますね。現在は、株式会社MGNETにて、「広義のデザイン」を武器に事業展開されていらっしゃいますが、そこに至った経緯を教えていただけますか。

「引かれたレールには逆らいたい」という思いのもと、父の会社には入社せず、初めは車の営業マンをしていました。しかし、大病をきっかけに、結局父の会社に入社することに。しばらくは現場作業などはできない状態でしたので、伝票を整理したり、もともと興味があったデザインやWeb制作などを独学で学びながら会社のWebサイトなどを作ったりしていました。

その後、頑張りが認められたのか、父から自社の金型技術を生かした名刺入れの製造、そしてそれを販売するECサイトの運営を任されることになったんです。

さて名刺入れを作ろうと思ったのですが、製作のお願いをしにいった工場で、飛び交う業界用語が全く理解できず。加えて、図面が書けないといったスキル不足故に、なんと名刺入れひとつ作ることができませんでした。歯がゆかったですね。そのとき、「仮にも工場の息子である自分でさえものが作れないのであれば外の人は余計苦労するだろうな」と感じたことが、今の事業の原点になっています。「ものづくりの町であるはずなのに、ものづくりがしにくい」という業界の危うさ(共通認識が生まれにくい仕組み)を痛感した瞬間でした。

まだ、言葉や図面の書き方だけだったら勉強をすればいいんです。しかし、それだけの問題ではなく、ものづくりがしにくい背景には、各企業の受注体制や田舎特有の政治問題といった様々な問題が絡み合っていました。これはもう「狭義のデザイン」で外側を整えるだけではどうにもならない。これからこの町でものづくりが当たり前にできるため、ものづくりにとってより良い環境を作るため、体験やサービス全体を設計する「広義のデザイン」という視点でアプローチすることが必要だと思いました。

ー 「ものづくりの町であるはずなのに、ものづくりがしにくい」と気づけたことが、事業スタートに至る大きなきっかけだったのですね。

そうですね。僕がいま「広義のデザイン」を仕事にできている1番のポイントは、「ずっと同じ環境にいなかったこと」だと思っています。最初から父の会社でずっと働いていたら、技術をひたむきに向上させることだけに注力していたかもしれません。別業界での経験があったからこそ気づけたことだと思っています。

ー 現在MGNETさんが展開している「ものづくり・ことづくり・まちづくり」の3つの事業内容を、詳しくご説明いただいてもよろしいでしょうか。

ものづくり事業は、主に製品の企画・開発のコーディネートをしています。お客様の中のつくりたいもののイメージをヒアリングして、職人や工場を選定したうえで素材や仕上がり、発注まで一貫してサポートして、カタチにしていきます。

ことづくり事業は、各企業が持つすばらしい技術やサービスを、いまの時代に合わせて、より魅力的に発信していくというもの。主にブランディングやパッケージ、サイト制作などのディレクションを行っています。

まちづくり事業は、未来のものづくり業界や燕三条地域を担う若者の輩出にフォーカスした事業を展開しています。たとえば、地域通貨〈まちのコイン〉の燕三条版『めたる』の運営を行ったり、まちの活性化を目的として若者が集まれるようなカフェをプロデュースしたり、小学校や中学、高校に出前授業をすることもあります。

MGNETの事業内容:https://mgnet-office.com/

本質的な課題をクリエイティブに解決するには、「上流から」が鍵

ー 武田さんがクリエイティブに関わる上で心掛けていることはありますか。

自分たちの仕事は、「いかに上流からはいれるか」が大事だと思っています。というのも、ずっとその業界や組織の中にいると気づきにくい根底のズレが一定数あると思っているからです。本来そのズレの見直しが最も重要なはずなんですが、下流から入るのではすでに手段が決まってしまっていて、根底の見直しまではなかなか介入ができません。

MGNETで一番お付き合いの長いお客さまとして、株式会社中野科学という金属表面処理を扱う会社さんがいらっしゃいます。上流から入れた例として、この会社の新規事業「As it is」というカトラリーブランドの立ち上げに関わることができたのは、MGNETとしても成功体験として印象に残っていますね。

― どのような流れで「As it is」の立ち上げに携わられたのですか?

もともと、中野科学さんは新規事業として、長きにわたり新商品の開発に取り組まれていました。しかしながら、新規事業は現状維持が続いているためもっとベースアップをしたい、そして今後の事業承継や事業拡大についての課題や展望を現社長からお聞きできました。その話を聞き、MGNET立ち上げのきっかけにもなった名刺入れのノウハウを生かしたら、何かお手伝いできることがあるのではと思いました。そこで、一緒に開発を手伝わせてもらえないかと、新規事業の12カ年計画をつくって持ち込んだんです。以降、関わらせていただけることになりました。

― 熱意が素晴らしいですね!中野科学さんにはどのような提案を行ったのでしょう。

うちが一番最初に持っていったのは「製品開発やめませんか?」という提案でした(笑)なぜなら、新規事業イコール新製品開発ではないからです。一般的に、商品を開発して事業として成功させられる確率はとても低く、即時売上もそこまで見込めない。別の角度からのアプローチが必要だと考えました。

― それは勇気がいる提案ですね。衝突はありませんでしたか?

中野科学さんも製品開発を念頭にご依頼をいただいていたので、やはり衝突はありました。でも、衝突を恐れてしまうと「本当にやらなければいけないこと」は、なかなかできないと思っています。結果的に合意と理解を繰り返し「As it is」という製品開発事業にたどり着くまでには約2年かかりましたが、納得いくまですり合わせを行いました。

― その後どういったプロセスを経て、最終的に「As it is」という自社商品の開発に至ったのかお聞きしたいです。

すり合わせをする中で、ある日、中野科学さんから金属表面処理を行う過程で金属に色ムラが出てしまうことがあるとの情報を聞きます。チャンスだと思いました。「逆にこのムラを再現できれば、意図した柄をつくることができるようになり、他の製品にも応用できる新技術になるのでは?」と考え、その技術を表現するアウトプットとして、「As it is」のリリースを思いつきました。

「As it is」:https://as-it-is.jp/index.html

カラフルに見えるこちらのカトラリーですが、実はこれ、塗料や染料など着色によるものではありません。金属が酸化することでつくられる、薄く透明な酸化被膜の極微量の調整を続け、光の干渉現象により美しく発色して見せているだけなんですよ。性質はステンレスありのままなので、塗料が剥がれるなどの心配もなく、褪色・腐食に強いため長く愛用できるのも特徴です。

結果、最終的なアウトプットは商品開発という形に落ち着きましたが、「As it is」のビジネスモデルは「作って売って終わり」の商品開発ではなく、本業でも活用できる新技術への応用・活用にあります。

物質的な「As it is」という製品の価値だけではなくて、「As it is」の製造過程で生まれる事象を本業に還元することを念頭におくことで、より価値のある新規事業を一緒に創りあげることができたと思っています。

50年、100年後の業界を見据えて。「遊び心」と「二面性」で関わる人びとを魅了する。

ー 社内外を巻きこみながら、熱量の高いプロジェクトを生み出している武田さんですが、日々のコミュニケーションや組織デザインで意識していることはありますか?

何かを伝えたいと思ったときには、できる限り「遊び心」の要素をいれたいと思っています。重たい雰囲気で話しても、「切実さ」や「尊さ」は伝わったとしても、「よし、やろう!」みたいな、前向きな動きにはつながりにくいんですよね。

以前、稟議が通らず一度頓挫したプロジェクトがあったんですが、担当者の方が2年かけて社長を説得して稟議を通してくれたことがありました。その方に「なんでMGNETを選んでくれたんですか」と聞いてみたんです。そうしたら、「MGNETさんと仕事したら、楽しそうだなと思って!」と言ってくださって。

担当者の方曰く、やっていることは何一つ掴めない(笑)。でも全部がちゃんと繋がっていて、その一手一手が本質的で、かつそれをMGNETの社員みんなが楽しそうにやっている。それを見て、自分の会社もそういう風になったらすごくいいなと思って頼んでくださったそうです。

その企業さんは、もともと燕三条で職人たちが使う軍手の製造・販売をされていた会社で、現在は商品パッケージ、販促用のPOP・什器などの企画・製造を本業とされています。そんな企業さんが新規事業として、なんとソフトクリーム屋さんをオープンされます(笑)

株式会社ほしゆう「サーキュラーソフトクリーム」公式サイト

しかし、ここはただのソフトクリーム屋さんではなく、これからの未来をつくる「こども」を起点に、建築や空間サービスを通して社会循環に触れられる実験的な店舗となっています。

自然放牧酪農による安全で良質な素材でつくられたこだわりのソフトクリームとともに、幸せな時間が流れる素敵な空間になってますので、燕三条にお越しの際はぜひ訪れてみてください。(詳しくはプレスリリースをご覧ください)

MGNETという組織としては、「ゆるいけど、ストイック」とか「ポップだけど、真面目」とか、そういった取っ掛かりの柔らかさの中の尖りみたいな二面性を大事にしています。10周年のときに作っていただいたロゴが、まさにMGNETの雰囲気そのもので。

MGNETのMをモチーフに、ソフトとハードを繋げ、新しいことを始める発射台を表現。ときには滑り台のように楽しむエンターテインメントを忘れない、遊び心あるロゴにしていただきました。

ー 職人気質で変化を好まない方も多い印象を受けるものづくりの世界で、MGNETさんのように革新的な取り組みをされる際、苦労される場面も多々あるのかなと想像します。そういった方と価値を共創するにあたって、心掛けていることはありますか?

やはりハレーションはありますが、気にしないようにしています。それこそ20代半ばから後半にかけては某掲示板に「武田と関わるな、バカ息子で有名」とか「あいつは酒乱だ」とか、あることないこと書きこまれて、それはもうへこみました。

そんなとき、著名人の方から「それは、武田くんが何者かになり始めた証拠だよ」と言っていただいたり、MGNETのメンバーからも「武田さんの話を酒の肴に居酒屋で盛り上がれば、居酒屋が儲かって、武田さんは経済に貢献してることになるよね。さすがじゃん!」と言われたりして、だいぶ気持ちが軽くなりましたね。そんな仲間に囲まれていたこともあって、うわさ話には一喜一憂しなくなりました。

基本的に5年後、10年後ではなくて、50年後、100年というスパンで物事を考えているので、ものづくりにおける最終消費者や未来の担い手にとって本当に価値のあることに対して、真摯に取り組んでいけたらと思っています。

新潟のデザインリテラシーを上げ、クリエイティブ市場を盛り上げる

ー 武田さんからみて、新潟のクリエイティブが盛り上がっていく上で、具体的にどんなことが必要だと思いますか?

まず、デザインのイメージをアップデートする必要があると思うんです。そのために、7,8年前から小学校・中学校・高校でデザインについて話す出前授業をしています。

世界基準でみたときのデザインって、思考の方法や物事を成立させるための方法論みたいなことだと思うんですけど、日本では、「デザインとは、素材や色、形を使って見た目や機能を美しく整えること」と考えている人がまだまだ多いですよね。

「そうじゃないんだよ」というよりは、「もっと自分たちの身の回りにあるんだよ」と伝えることで、新潟県の子どもたちのデザインのイメージを変えていく必要があると思っています。そして、子どもたちはもちろんですが、子どもたちを通して大人たちも学べる機会を作っていくことで、新潟のデザインリテラシーはもっと上がっていくと考えています。

ー クリエイターだけが盛り上がればいいという問題ではないということですね。

その通りです。結局のところ、人びとのデザインリテラシーが上がらなければ、市場は大きくならないし、結果的にクリエイターは仕事がなくなってしまいます。なので、「新潟県ってデザインに対する意識高いよね」という感じになるといいなと思っています。

しかし、そこに関しては、正直福井や富山を見ると絶望しますよ(笑)。僕たちが今やっているようなことをもうずいぶん前からやっているんです。だから僕は、新潟にデザインセンターをつくりたいと思っています。やっぱり施設があると人が集まり仕事が生まれるので、とても大事なんです。

余談ですが、僕のtwitterのフォロワーにアシフ・カーンという世界で1,2位を争う有名な建築家の方がいるんです。ロンドンにある外務省の施設があるんですが、そこに展示してあるうちの作品を見て、興味を持ってくれたそうです。もし、そんな人に新潟のデザインセンターの設計をしてもらえたら最高ですよね。

もちろんそれが叶うかは分かりませんが、できる限りポップに、それでいて真面目に、新潟のクリエイティブを盛り上げる一助ができればいいなと思っています。

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